オスプレイシリーズ


日本語でも出ている中では『世傑』と並ぶ定番 (だと思っている)『オスプレイ・ミリタリー・シリーズ』。戦中のソ連に関する書籍も複数出ており、中には日本語に訳されている号もある。

ソ連空軍、ソ連機、及びレンドリース機に関連したものとしては、以下のものがある。

【ラインナップ】

=翻訳版 (日本語) =

■『第二次大戦のソ連航空隊エース 1939-1945』(戦闘機エース 2)

■『第二次大戦のP-39エアラコブラエース』(軍用機シリーズ 33)

 

=原語版 (英語) =

■『LaGG&Lavochkin Aces of World War 2』(Aces 56)

■『Yakovlev Aces of World War 2』 (Aces 64)

■『Soviet Lend-Lease Fighter Aces of World War 2』(Aces 74)

■『Polikarpov I-15, I-16 and I-153 Aces』 (Aces 95)

■『MiG-3 Aces of World War 2』(Aces 102)

■『Soviet Hurricane Aces of World War 2』 (Aces 107)

■『Il-2 Shturmovik Guards Units of World War 2』 (Aircraft 71)

■『Pe-2 Guards Units of World War 2』  (Aircraft 96)

見つけられた範囲で並べてみたが、抜けがあるかも……。

英語のオリジナルを含めれば結構な書籍が出ているのであるが、残念ながら日本語に訳されているのは00年代前半に出た2冊のみだ。それ以降は2023年になるまで1冊も訳されていないため、今後も翻訳の望みは薄いかもしれない (皆で意見・要望を送れば出るか……?)。

とはいえ、その訳された2冊だけでも結構なシロモノである。その片方は空軍全体について扱っているので、個人的には入門書の一つに数えてよいと考えているほどだ。詳しくは各書籍の項で。

 

原語版は上記のラインナップにある通り、多様な機体について取り扱われている。またこちらはKindle版なども出ていて手に入れやすい (2023年4月現在、日本語版は電子化されていない)。英語でも構わないというのであれば、これらは心強い資料になる。文字列検索が使えるのは非常に便利であるし。

 

このシリーズの全体的な特徴としては、(タイトルの通りではあるが) エースパイロットや部隊ごとの活躍に強いところが挙げられる。エースの活躍やどこの部隊がどのような戦いをしていたかなどが、時期・戦線ごとに綴られている。機体の機材や戦術の話も絡められており、単なる活躍話にはとどまらないものとなっている。

エースや部隊がメインではあるものの、機体についての情報も無い訳ではなく、冒頭の章には一通りの開発や特徴などについても説明されている。とはいえそこまで詳しいものでもなく、どのモデルで何がどう変わったかの様な情報には乏しいため、それらについては他の書籍を頼った方がいいだろう。

このような特徴を見ると、機体情報に強く活躍面に乏しい『InActionシリーズ』とは対極にあると言える (流石に全体の情報量には差があるので、完全な対関係ではないが……)。

 

他には、定番なエース乗機のカラー側面図や、巻末には取り上げている機体のエース一覧などの資料も収録されている。本文では紹介のないエースの名前も多くあり、流石に露語圏のサイトを頼ることにはなってしまうが、そこから各々について詳しく調べていくことも出来るだろう。


■第二次大戦のソ連航空隊エース 1939-1945

書籍名

第二次大戦のソ連航空隊エース 1939-1945

著者

[著]ヒュー・モーガン, [訳]岩重多四郎

出版社 大日本絵画
出版年

2000年

書籍形式

ソフトカバー, 95ページ

言語 日本語 (英語)
定価 1,800円+税

本書は『ソ連航空隊』をテーマにしていることもあってか、他のシリーズとは少し毛色が異なっている。エースについての情報もあるのだが、それよりもソ連空軍についての情報に結構なページが割かれており、またその内容も貴重かつ組織の理解に大きな助けとなるものばかりだ。

 

要素が多いため、章ごとに取り上げていこう。

■1章 ファイター・エースの生まれるまで

「日本語で読める」という点を考えれば、これほど貴重なものは無いと感じるのがこの章だ。ソ連の軍事航空がいかにして政治・国内の団体・英雄たちによって育まれ成り立ったか、そしてそれが戦いでどのような試練に遭い、成果を挙げたかを簡潔にまとめた文章から始まる。

そしてその後には、ソ連空軍における「戦果算定」プロセス、他国では珍しい「報奨制度」、戦いの中で生み出された『棚』や『鋏』の様な「戦術の発明」といったものが続く。最後には空対空体当たり攻撃『タラーン』についても紹介されている。

どれも英語ですらアクセスするのは少々手間か、もしくは難しい内容ばかりだ。露語に余程達者でない限り、この本は大祖国戦争期までソ連空軍を理解する大きな助けとなるだろう。

 

■2章 ソ連空軍戦闘機隊、その展開 1941-1945

1941年6月22日から始まる独ソ間の航空戦について、主要な戦いを時系列に沿って説明される章。初日の大損害から緒戦の苦戦模様、戦い以外にもノヴィコフによる組織再編などの要素を絡めつつ説明がなされている。

残念ながらソ連空軍自体の戦いは、転換点たる「クルスクの戦い」までしかなく、その後はノルマンディやその他諸国パイロットにより編成された部隊をメインとして進んでいく。独ソ航空戦の概説としては少し勿体ないと感じるところもある。

とはいえ、これはこれで助かる情報であるし、他国パイロットにより編成された部隊も空軍の大事な要素だ。また、転換点までであってもそれらを日本語で読めるのは、今後様々な本を読むうえでよい下地作りとなるであろう。

 

■3章 ソ連戦闘機とそのエースたち

ポリカルポフのI-15から始まるソ連の主力戦闘機ごとの簡単な紹介と、それにまつわるエースのエピソードが紹介されていく。流石に広く浅くな内容ではあるが、機体とエース・部隊名が紐づいているので知識として吸収しやすいだろう。

ただ、「La-7については10行程度しかないのに対し、緒戦でのみ使われたMiG-3はその7倍以上の記述がある」、「Yak-1とYak-7の項がなく大きな働きをしたYak-9についてもMiGより短い内容しかない」など、少々機体ごとの内容にアンバランスさがあるのは否めない……。戦闘機自体をテーマにした書籍ではないし、それらについては『世傑』が十分カバーできるので、それらも頼れば大きな問題は無いだろう。

レンドリース機の項もあるが、中身はほぼHurricaneの話題が占めている。だが、そこに和訳の上で引用されているHurricaneと共にソ連に渡り戦った151 wingのパイロット─エリック・カーター氏 (2021年までご存命だった!) の回想は貴重だ。ソ連海軍航空隊と英国空軍 151wingの話は『北欧空戦史』(P.255~275) にもあり、これと重複するエピソードもあるが、合わせて読めばより深く彼らの話を知ることができるだろう。

 

■4章 ソ連空軍の主要なエースたち

本のタイトルからすると「これがメインなのでは?」と思うが、意外と後ろの方にある。ここでは独ソ戦における著名なエースたちについて紹介がなされている。コジェドゥーブ, ポクルィシュキン, レチカーロフといったトップ3から始まり、それに続く順位のエースなどが続いて掲載されている。

これら個別に取り上げられているエースに比べると短いものの、1936年から独ソの戦いの前までの間に名を揚げたエースについても触れられており、書籍のタイトルにある時期よりも広い範囲のエースたちを知ることができる。一応女性パイロット達についても触れられていたことも記しておこう。

まとまって説明のあるエースは全体のほんの一握りではあるが、巻末資料には上位100位分のエースリストもあり、『ソ連航空隊エース』の書名に恥じない幅広さがある。

ちょっと変わったところでは「義足のエース」という項があり、そのタイトル通りのエースの紹介がなされていた。一人あたり3行程度と僅かではあるが、意識的に調べないと知ることができないであろうパイロット達であるので、こうした情報もまた得難いものだ。

他には、1章と2章の間にはカラーページがあり、機体の塗装図とパイロットの軍装姿が掲載されている。後者はスケール模型に付属するパイロットの塗装の参考になることだろう (この色が正しいものなのかは私には判別できないが……)。

 

気になる点については……言うほど悪いという訳でもないのだが、ロシア語のカナ表記が原音寄りのものになっている。例を挙げると、"Литвяк/Litvyak"は殆どの場合「リトヴァク」と書かれていると思うが、本書では「リトヴャック」となっている。他にも「ラヴリネンコフ」は「ラヴリニェーンコフ」、「シチェルバコフ」も「シシェルバコーフ」となっている。大体は見れば分かるが、たまに既知の表記と繋げられず戸惑うこともあった。原音に近い表記を採るということ自体は悪いことではないし、困ることもそこまで無いとは思う。ちょっと注意という程度。

 

機体情報などに関して少々古いものが散見されるほか、大事なところで「誤訳では?」と思われる個所もある。その辺りはこの項の末尾に記載しておくので、読む前に確認頂ければと思う。

 

ともあれ、全体的によくまとまっており、1章はとても貴重な情報に溢れている。100にも満たないページ数ながら、「大祖国戦争期までのソ連空軍を理解する」にあたり大きな助けとなると思う。『世傑』と並び立つ偉大な入門向け書籍だと言えよう。

空軍やエースパイロットらに興味があるならば、必ず役に立つ一冊だろう。


■第二次大戦のP-39エアラコブラエース

書籍名

第二次大戦のP-39エアラコブラエース

著者

[共著] ジョージ・メリンガー, ジョン・スタナウェイ
[訳] 梅本 弘

出版社 大日本絵画
出版年

2003年 (原書:2001年)

書籍形式

形式, ページ

言語 日本語 (英語)
定価 2,000円+税

タイトル通り、P-39を乗機としたエースたちについての一冊。表紙こそ米陸軍航空隊のP-39の姿が描かれているが、ソ連のコブラ乗り達についても結構なページが割かれている。99ページあるうちの49~85ページがソ連における運用と活躍についてだと言えば分かりやすいだろう。

P-39が米英での評価と異なり大いにもてはやされていたことは、今ではそれなりに知られているようにはなった。しかし、実際に彼らがどこを気に入って、何を不満としていたのか……そして、どこから運用がされ始め、どのようなエースが生まれたかなどの話は、ネットでそう簡単にアクセスできるものではない。それらのことを日本語で読むことができるのがこの書籍である。

原書は2001年に出ており、情報も大いに更新されたものになっている。『世傑 P-39』にあったような「P-39はタイガー戦車狩りに活躍した」「ポクルィシュキン機には赤い星が55も描かれているが出撃回数だろうか」の様なレベルの話は一切なく、信用に足るものであると感じた。

(P-39に関わるところが殆どではあるが) ソ連空軍のエース部隊の一つである第9親衛戦闘航空連隊とそのパイロットらに触れているところや、前線の部隊がどのようにして兵力の補充をしていたかなど、内容が機体と運用だけに限らないところも本書の魅力だ。

最後の章はP-39の塗装についてのものとなっており、文字と実機写真のみではあるが迷彩や国籍標識の変遷について解説がなされている。実機写真から時期的な情報を読み取ったり、模型を作る際の参考にもなるだろう。そして巻末資料は、5ページにも渡る「コブラのエースの一覧」がある。人命がカタカナ表記なのでもとの露語表記に直して調べるのは骨が折れるかもしれないが、コブラのエースを調べる足がかりとしては非常に有用だ。何事も知らなければ調べることはできないのである。

 

一応前半部にも触れておこう。こちらは米陸軍航空隊でのP-39の運用・活躍─日本機と僅かなドイツ機との交戦例について書かれている。太平洋だけでなく、アイスランドや地中海などに居た機体の話などもあり、これらもなかなか興味を引くものだ。どうにも日本視点で書かれた本では「カツオブシ」のエピソードで終わってしまうP-39だが、本書では米陸軍航空隊視点からの実際の働きを読むことができる。

 

米ソそれぞれでのP-39のことを知ることができる貴重な一冊である。日本語でP-39について知りたいならば、この本意外に無いのではないだろうか。米・ソのどちらかにしか興味がないという人にも、強くお勧めしたい。


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■タイトル

書籍名

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著者

著者名

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出版年

20XX

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形式, ページ

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