ソ連機とシリアルナンバー


更新履歴 (内容に変化ないものは除く)

[2024/01/05] 記事公開

わたくし長いこと悩んでる (深刻ではない) ことがありまして、それはですね。

 

シリアルナンバー記事の人気がない。

 

ページのアクセス数などを見て『人気な記事』が大体分かるんですが、シリアルナンバー記事らはとてつもなくその数が少ない。 結構な時間かけてるのに……

 

いや、いいんですよ。アクセスが少ないこと自体は何も困ることではないので。

しかしやはり……色々知った身としては「もったいない」なと。ソ連機について触れる時にシリアルナンバーを知っていると、思ったよりも多く……多くはないか……まぁ色々な情報が得られることがある。シリアルを読み解く知識は、機体のことを知るにあたりとても有用なツールなのだ。

別にこれはソ連機を調査をする時に限らず、創作方面でも大いに役立つことだろうと思っている。

 

なので今回は、ソ連機とシリアルナンバーの関りについて紹介してみようと思う。それらを知ることで、シリアルナンバーの規則の方も興味を持ってもらえればなと。

◆シリアルナンバーってなに

シリアルナンバーとは、各製造された個体ごとに割り振られている固有の製造番号である。ただの数字ではあるが、ものによっては様々な要素が含まれており、そこから機体がどういった出自なのかが分かることがある。

 

とはいうものの、それが分かるのはシリアルにそうしたことが分かるような要素が含まれている場合に限る。大戦機のシリアルナンバーともなると大した要素がなく、単なる連番のみのことも多い。国によって割り当て方も異なるので、「全てのシリアルナンバーが有用な情報を持つ」とは一概には言い切れないのは確かだ。

 

百聞は一見に如かず、各国大戦機のシリアルナンバーを見てみよう。

大戦機においてシリアルナンバーを最も多く見かけるのは、米陸軍機ではないだろうか。理由は知らないのだが、陸軍の機体は尾翼に大きくシリアルを入れていて、マニアの中では個体識別などにしばしば活用されているように思う。

 

十年ほど前にニュージーランドで撮影した"Dove of Peace"号を見てみよう。垂直尾翼には少し離れたところからでも視認できる程度のサイズで「6桁の番号」が描き込まれている。これがシリアルナンバーなのだが、実はこれは完全ではなく短縮形となっている。

pic01 (左/上):P-51D "Dove of Peace"号、尾翼の'473060'は短縮形のシリアルナンバー。
Photo from:Warbirds over Wanaka 
2012にて撮影
pic02 (右/下):コクピット側面に描き込まれている機体情報、'SERIAL. NO. AAF 44-73060'がフルのシリアルナンバー。
Photo from:同上

実際の完全なシリアルナンバーは、コクピット側面に描きこまれているもので確認できた。見れば上から2番目に「SERIAL. NO. AAF 44-73060」とあるのが分かる。この'44-73060'が完全なシリアルである。

この数字がどういったものなのかというと、最初の2桁は「発注年度」で、ハイフンで繋いだ後半部が「本来のシリアル」なのだそう。なので短縮形は「発注年度の年代 (先頭の数字) とハイフンを省略したもの」のようだ。機体の発注が40年代なのは自明なので、末尾のみ頭に付けているのだろうか。

 

このシリアルナンバーから機体の発注年度が分かり、またこれを元にして機体の形式を調べることも可能だ。形式とシリアルの対応表は『世界の傑作機』や『ミリタリー・クラシックス』辺りの特集に掲載されているし、探せばWeb上にもあるだろう。そこから製造工場等も調べることも可能だ。

 

一つ注意だが、今回例として出したようなレストア機・現存機は必ずしも実際のシリアルナンバーが描きこまれているとは限らない。

この"Dove of Peace"号は過去実在した機体の塗装を再現したもので、シリアルもこの現存機自体ではなく、大戦中に実在した"Dove of Peace"号のものを使用している。この機体の本当のシリアルは'44-13016'で、形式もP-51D-5-NTではなくD-20-NTなのだ。

英軍機も胴体にシリアルナンバーが描きこまれているので、日頃 (?) からよく目にすることだろう。

機体には大きく2つの要素が描きこまれている。一つは胴体に国籍マークを挟んで記載されている『コードレター』、これは所属と機番をアルファベットで表すものであって、被りはないであろうが機体固有のものではない (時には変更されたりする)。

もう一つの「尾翼の近くに少し小さめに記載されている英数字」が、機体固有のシリアルナンバーである。描き込まれるサイズは機体や時期によってまちまちに見えるが、尾翼の前にあればシリアルナンバーだと思ってよい。

pic03 (左/上):Spitfire Mk.IX、'FL◎A'はコードレターでその横の'MH397'がシリアルナンバー。
Photo from:Warbirds over Wanaka 
2012にて撮影
pic04 (右/下):こちらはHurricane、'P3351'とあるのがシリアルナンバー。
Photo from:同上

シリアルから要素が読み取れるかは、ちょっと調べてみた範囲では分からなかった。ある程度まとまった連番でモデル等が分かるところもあるが、数十数百単位なので少し難しいかもしれない。詳しいことは分からないが、製造ではなく発注時に割り振っているようである。

Spitfire辺りは以下のようなまとられたサイトもあり、そこから辿るのは容易ではあるだろうが……。

 

Spitfire Production summary

http://www.airhistory.org.uk/spitfire/production.html

pic5:61-120機の銘板ステンシル、'中島5357号'とある
pic5:61-120機の銘板ステンシル、'中島5357号'とある

日本機では連番の製造番号が各機に与えられていた。「XXX号機」みたいな記述は書籍等でよく目にするだろう。「生産何号機から何号機が乙型」とか、そういうやつである。機体によってはモデルごとに「4000番台が……」「5000番台が……」とか色々とあるようであるが。

海軍機は胴体に製造番号がステンシルで描かれている。pic5は里帰りで所沢に来た『61-120』機を撮影したもので、ここに描かれている通り「中島製の5357号機」である。

 

ドイツ機のシリアルナンバーは'Werk-Nummer'、略して「W.Nr.」とされる。書籍などで「W.Nr. 210903」などと書かれてるやつだ。これは調べても正直規則等何も分からなかった、単に発注単位等で割り当てられてる気がする。知ってる人誰か教えてください。

◆ソ連機とシリアルナンバー

それではソ連機とシリアルナンバーの関りを紹介していこう。

ソビエトでは、シリアルナンバーは工場ごとに異なる規則性をもって割り振られていた。米英独の様に完全に固有なものではないため、場合によっては被ることもありうる。細かな規則等は別のページにまとめているので、そちらを参照して欲しい。

 

そんなソ連機のシリアルナンバーは、どこで目にするだろうか?

まずは実機の例を見ていこう。見かける頻度は機体によって異なるが、実は機体の外板に描き込まれていることがある。米英と比べるとだいぶ小さく、全機に必ずあるという訳でもないので難しいが、注意深く観察すると読み取れることもある。

 

意外と一番多く目にするのはIl-2なのではないだろうか。理由は不明だが、Il-2は翼の主脚格納部の先端にシリアルが記載されているのだ。

pic06 (左/上):主脚を整備している様子を捉えた写真、主脚格納部の先端部に'8207'と描かれている。
Photo from:https://waralbum.ru/415108/
pic07 (右/下):ステンシルで'1863722'と描かれている。
Photo from:https://www.airwar.ru/enc/aww2/il2.html

pic06では'8207' (8より前に数字があるかは確認できず不明)、pic07では'1863722'と描かれている。前者は情報が少なくぼんやりとした予想をすることしかできないが、後者の方は確実にいくつかの情報が読み取れる。

詳細な規則は機体ごとシリアル規則まとめのIl-2の項を見て欲しいが、'1863722'から以下の要素が分かる。

  • 生産工場は第18工場
  • 第22バッチの37番目の生産機

工場とバッチが分かれば、生産された時期や機体の細かな仕様も調べがつく。そこからさらに色々な事を絡めて調べていくことも出来るだろう。

 

機体のどこにシリアルを描き込むというルールがあるのかは分かっていないが、ものによっては各部にそうしたものがあるのは確認できる。よく見かけるのは垂直尾翼だ。

pic08 (左/上):MiG-3の垂直尾翼とラダーにシリアルが記入されている、機番の2の下に小さく'5077'とある。
Photo from:http://ava.org.ru/iap/28pvo.htm
pic09 (右/下):La-7の尾部、赤い星の垂直尾翼側にシリアルが記載されている (頭の斜め上)。
Photo from:http://ava.org.ru/iap/4gm.htm
pic10:from http://ava.org.ru/iap/562.htm
pic10:from http://ava.org.ru/iap/562.htm

これらの写真のように、垂直尾翼に描かれた赤い星の上に細かな文字が描かれていることがあり、こういうものはほぼ確実にシリアルナンバーだと思ってよい。サイズがサイズなので読み取れることはなかなかないが、模型やイラストでこういったものを描き込むといい感じに情報が増やせる……と思う。

 

pic08のように垂直尾翼とラダーに描かれているパターンと、pic09のように尾翼側にしかないパターンもある。これらの写真の例では共に赤い星の水平なラインの上だが、pic10の様に下側にあったりもする。

この写真の機体はYak-1で、拡大すると'2442'と書かれているのが分かる。Yak-1は第292工場と第301工場で生産されていたが、後者は早々に生産を終了したので恐らくサラトフの第292工場製だろう。この工場のシリアルは後半がバッチ番号なので、第42バッチの機体と分かる。……このようにして工場やバッチが分かれば、機体の各部仕様も分かったり予想が出来たりする。もちろん情報があればだが

 

ソ連機はA型, B型の様なモデル分けをしておらず、外見の変更までもが「第nバッチから導入~」といった感じのことが多いため、バッチ情報は比較的重要な要素となっている。

シリアルナンバーそのものではないが、シリアルを利用して付けられているものがある。それは機番である。そう、胴体側面に大きく書かれているあの数字だ。それらの全てが全てシリアルから取られているとは限らないが、そのような機体は珍しくない。

以下のpic11に写っているLaGG-3の胴体には、白で「57」という数字が描かれている。そしてこの機体のシリアルは'3121357'で、機番はシリアルの末尾2桁から取られていた。

pic11 (左/上):不時着したLaGG-3 『白の57』、シリアル'3121357'。
Photo from:http://ava.org.ru/iap/524.htm
pic12 (右/下):意図せずこちらも不時着機、Yak-7『白の37』……シリアルは'3437'。
Photo from:https://airpages.ru/ru/aircraft_ru.shtml

次のpic12のYak-7には白で「37」とあり、この機体のシリアルは'3437'だった。こちらも末尾の2桁からとられている。これは偶然ではなく、そういう慣習があるようなのだ。

 

ここで注意だが、機番は必ずしも末尾2桁が機番になる訳ではなく、シリアルに含まれる「生産バッチ中の生産番号」を利用しているというのが実際のところだ。バッチとは生産単位のひとまとまりのことで、20とか50、もしくは100といったまとまった機数を1バッチとして数えている。1バッチが何機かは時期や工場の生産能力にもよる。生産立ち上げ当初は5とか10など小さい単位だが、生産が進むにつれて徐々に20, 50, 100と上がっていくこともある。

そして「このバッチの中で何機目に作られたか」というのが、多くのシリアルナンバーの中に含まれている。pic11/12の機体の場合は末尾2桁にそれが含まれており、機番として活用していたのだ (実はpic11の機体の場合バッチ番号も含んでいるのだが……それは後述する)。

生産番号が先頭に位置するシリアルナンバーを付ける工場で生産された機体では、当然だが頭の数字を使っている。第292工場製のYak-1では、'45138'というシリアルの機体では機番は「45」、'01142'では「01」としている。なおそれぞれ後ろに付いてる'138'と'142'はバッチ番号である。

 

恐らくだが、こうした機体たちは工場で機番が記入されていて、それを部隊に配備された後もそのまま使っているのだろう。たまに機番がシリアルと一致しないケースがあるが、そういう機体たちは配備後に部隊で機番を新たに割り当てており、塗装もやり直しているのではないかと思う。

他国機の機番がせいぜい1~十数程度、英軍機でもアルファベット1文字 (A~Zで最大26) でこと足りるのに対し、ソ連機が50を超え99の様な大きな数字まで使っていたのは、このような事情があったからなのだ。

シリアル関連の持ちネタはこれくらいだが、他のシリアルでの遊び方は……そうだなぁ。

例えばLG-3というフィンランドで運用された鹵獲LaGG-3がある。これは1942年9月14日に撃墜され不時着したところを鹵獲されたのだが、当該機のシリアルは'3121357'だった。そう、上のpic11に写っている機体である。

ルールの説明は省くが、このシリアルの要素を分解すると、'31'はLaGG-3に割り当てられた記号で、'21'は第21工場、残る'357'は第35バッチの7番目の生産機となっている。この第35バッチというのは実は1942年8月に生産が始まったもので、ここから「配備間もないであろう最新バッチの機体が早速鹵獲されててワロタ」となるみたいな……面白くない?そっか……。

国内の書籍ではシリアルナンバーを見ることは殆どないが、洋書ではしばしば記載されているものを見る。写真のキャプションでも「機体名 (シリアルXXXXXX) は~」と書かれていることも多い。

日本語だと以下の記事でシリアルの記載があった。

製造番号305401が刻まれたIl-2M3シュトルモヴィクは、不時着からほぼ半世紀が経過していたにもかかわらず...

湖底から引き揚げて復元された“空飛ぶ戦車” 衛星写真がもたらしたロシアの新ビジネス

https://www.iza.ne.jp/article/20220530-UGFU2DWOHFEULC2T5KJQNJMTNQ/2/

Il-2の'305401'とあれば、記事中に説明がなくとも規則から読み解けば工場・バッチ・バッチ中の生産番号が分かる。そこからさらに機体の来歴を調べることもできる。

こうした情報と共にシリアルを読み解くと、また新たな"発見" (新事実ではなく、面白さを見つけるという意味で) があることだろう。

そんな感じでソ連機とシリアルナンバーの関りを知ってる範囲で書いてみた。文中では殆ど説明しなかったシリアルナンバーの読み解き方は、以下のページにまとめている。書籍等で解説があったものは殆どなく、実際のシリアルを収集して推測しているものもあるので注意してほしいが、少なくともこれらに書いているものはある程度確信があってのものだ。

 

記事種:ソ連機のシリアル規則解読

工場ごとに生産された機体とそのシリアルをまとめているページ。分かった範囲で生産工場の情報も書いている。

 

機体ごとシリアルまとめ

上の記事からシリアルの規則だけを抜き出して、機体ごとにまとめ直したのがこちらのページ。ただ規則を知りたいというだけなら、こちらの方が余計な情報が無くてよいかもしれない。

また工場情報が手に入ってないので、こちらに規則だけ先に追加しているものもある。

 

機体をより調べる上でシリアルに含まれる情報を知りたいとか、模型などの創作にてそれっぽいシリアルを描き込みたいとかいう時には、是非とも使ってみて欲しい。


メモ: * は入力必須項目です



<参考リスト>

今回は参考書籍はなし、基本的に既存のシリアル記事に使ったものそのままなのでそちらを参照のこと。

 

以下現存機関連を調べた際に見たサイト。

 

【Dove of Peace号】

◆44-13016 VH-LUI "Dove of Peace"|P-51 Mustang Survivors (英)

https://www.mustangsmustangs.com/p-51/survivors/serial/44-13016

 

◆P-51D-20-NT Mustang s/n A68-674 RAAF|Aerial Visuals Airframe Dossier (英)

https://www.aerialvisuals.ca/AirframeDossier.php?Serial=37417