更新履歴 (内容に変化ないものは除く)
無線機、それは集団で戦うようになった第二次世界大戦の空において、戦闘機に無くてはならないものの一つ。航空先進国に数えられるソ連も勿論これを……と言いたいのであるが、残念ながら色々なごたごたがあったようである。
無線機の重要性や持たぬ者の悲しさを感じる記事となります。
(2025/08/17追記)
主に戦闘機用無線機の話となりますが、末尾に爆撃機や偵察機向けのものについても記載しております。
◆本題に入る前に
最初に述べておくと、まとまった資料や解説を行う内容は見つける事が出来ず、かなり苦戦しております (他国でも無線機を詳しく解説したページというのはあまり見ないし、そもそも資料が少なそうな分野である)。英語の解説ページは殆ど無く、ロシア語で探してもあまり成果は上げられていないのが現実。とてもつらい。
しかしこのままでは無線機関連が丸ごとお蔵入りも有りうるので、現時点までで集められた情報をまとめてみようと言う記事。断片的な情報をまとめ上げているところもあるので、無線機の型などの細かいところは話半分に読んでいただければ幸いです。エピソード類に関しては書籍やインタビューから拾っておりますので、これらは何とか……。
では始めましょう。
◆初期の無線機
彼らがいつ無線機について考えるようになったかは不明だが、独ソの戦いよりも前に3つの無線装置か何かがあったようである。
一つはRSI-1というもの。詳細は掴めておらず、少数のI-16が装備していたらしい事以外は不明である。もしかすると殆ど使われていないのかもしれない。
二つ目に、RSI-2というものも一応存在していたらしい。ただし2つの試作のみであったという。
最後にRSI-3。恐らく30年代後半に作られたものではないかと根拠もなく考えているが、少なくとも1940年時点では存在しており、その前から運用されているように見える。開戦時に戦闘機で使われていた無線機は、殆どがこれであったと思われる。
3つの無線機、後述の物などもそうであるのだが、「RSI-X」という名前で統一されている。RSI (露:РСИ) は"Радиостанция Самолёта - Истребителя"─「戦闘機用無線機」の略であり、戦闘機向け小型軽量無線機を指す。記事の終わりのほうで少し触れるが、爆撃機や偵察機向けのものもあった。
当記事では”RSI”という名前を繰り返し記述する事となるのだが、この呼称にはさらにややこしいものがあるようで、どうやらRSI-Xと記述するのは「送信機と受信機そのもの」のほかに「それら2つを合わせたセット」も指すらしいのだ [註1]。
例えばRSI-4というものは「”RSI-3M1送信機”と”RSI-4A受信機”の組み合わせである」とされている。機体解説などにて多く見かける「RSI-4を搭載した」という記述は、この二つを合わせたRSI-4という無線機のセットを搭載していたという事のようである。
なかなかにややこしいので、以降このセットについては≪RSI-X≫とカッコでくくるものとする。
[註1]:「セットの名称である」と書かれている物を見た訳では無いのだが、「RSI-Xは〇〇とXXを搭載した」という記述がいくつも見られたのでそう判断している。
◆無線機の問題点
戦前から無線機の開発が行われていたと聞くと、「ああ、ソ連にもちゃんと航空機用無線機があったんだ」と安心(?)してしまいそうになるが、実際には大きな問題が二つあった。
一つは、その数が圧倒的に足りず、実際に装備していた機体が少ないことである。
1941年1月1日に「戦闘機には無線機を搭載すべし」との指示が出ていたにも関わらず、同年の開戦時に配備されていた機体の殆どは無線機が搭載されていなかった。対独戦に備え機体の増産を急ピッチで進めていたが、その生産ペースに無線の生産が完全に追いついていなかったのである。
この有り様を如実に表している機体が、かの有名なYak-1である。あろうことかYak-1の最初の生産機約1,000機分は、最初から無線機が無い状態で生産されていた。この結果、1941年7月の夜間迎撃に関しての文書では、「送受信機の非搭載によって機体の誘導が行えない」ことが名指しで指摘されてしまっている (これは書籍『モスクワ上空の戦い』の巻末資料で確認出来る)。
他のLaGG-3やMiG-3も殆ど数が足りていない状況で、当初は受信機すら5機に1機、送信機は更に少ないという有様であった。徐々に5機に1機、3機に1機……と改善されていったが、受信機すら備えていないような機体がそれなりの数あったのは、ソ連側にとってかなりの痛手となった。
もう一つは、その肝心な無線機が役に立たなかったことである。
開戦当初に使用されていたのは、先にも述べた≪RSI-3≫と呼ばれるものであった。この無線機は雑音が多く、何を言っているか聞き取れない事が殆どであった。戦闘機パイロットが書き記した回顧録や晩年のインタビューでも「ヘッドホンからはバチバチと大きな音がし、何も通じなかった」といった感じの内容が書かれている事が多い。またこれには送信距離が短いという欠点も抱えていた。
その為、搭載されていても使わない、場合によっては丸ごと降ろしてしまうという事も少なくなかった。当時ソ連機の性能はドイツ機に劣るものであり、少しでも性能を上げる為にアンテナを含めれば約50kg (ヘッドセット及びアンテナ無しでは12.3 kg) にもなる”ノイズを発するだけの鉄の塊”を降ろしてしまうのも、無理もない話である。

無線が無い、もしくは使い物にならなかった結果、どのような影響が出ただろうか。
まず当然であるが、戦闘機隊内での飛行・空戦中の意思疎通が困難になり、連携を取ることが出来なかった事が挙げられる。40年代に入ると、空戦は編隊による集団戦へと移行した。これを行うには無線機による連携が必須なのは当然な話であり、つまるとこそれが無いと、各個判断による稚拙な行動しかとれないのだ。対するドイツはスペインの頃からこれに目をつけ、当然ソ連に宣戦布告するまでに幾度と戦ってきているのだから、持つ物と持たざる者、その差は歴然だろう。その結果が緒戦の損害に現れている。
味方機/僚機と意思疎通が取れなければ、勿論彼らへの警告なども出来ない訳で、無線機の不調や未搭載による交信不可から撃墜されてしまったと言う例も見られる。
無線の交信は何も空にある機体同士だけではない。地上との交信もこれで行うのだから、それが無いとなれば問題も出てくる。先に挙げたYak-1の例もそうで、地上の得た情報を空中のパイロット達に伝えることが出来ないのは、ドイツ軍の爆撃に対する有効な迎撃が行えない事に繋がった。また夜間では着陸時のトラブルも多いらしく、飛行場と連絡が取れなかった結果やむなく他の場所に降りる事となるなどもあったようだ。
レンドリース機の評価において、よく無線機の事を褒めるコメントが見られるが、それもこのように「数が少なく、かつあっても通じない」という事情があった為であった。
◆無線機の更新
使い物にならない無線のままで良い訳はなく、当然新たな無線機の開発が行われていた。1941年の始めには既に≪RSI-4≫と呼ばれるものの生産準備に取り掛かっていた。多く見られる記述では、これはRSI-3M1送信機とRSI-4A受信機の組み合わせによるものであったとされているが、ただ「RSI-3とRSI-4の組み合わせ」と記述されているものもある。
≪RSI-4≫の為の受信機であるRSI-4Aは、ノボシビルスクの第590工場で生産が始まったらしい。1942年8月20日からYak-1はRSI-4受信機とRSI-3送信機を搭載するようになっており、他機種も恐らく同時期に載せ始めていると思われる。
パイロットの話によれば「(≪RSI-4≫は) いまだパチパチという音がしていたが、交信 (接続) は非常に明瞭 (вполне четкой) だった」とされ、実用可能な域にまで達していた事が分かる。

話が少し脱線するが、このRSI-4を元に戦車搭載の無線機も存在した。ソ連は1941年にRSI-4AをベースとしたRSI-4T (通称Malutka-T) を開発。RSI-4Tは戦車向け無線機セット≪9-R≫及び≪9-RM≫の受信機である。 これらの無線機セットは、T-70の指揮車, T-34系列, SU-76M, SU-100, SU-122等に搭載されたという。
1942年の夏から冬にかけてのスターリングラード戦の頃には、それなりの数が行き渡ったとされている。全ての機が受信機を備え、送信機は5機に1基、10月1日には2機に1基の割合となった。送信機を備えた機体は編隊の長機、指揮する立場にあるパイロットの乗機として、受信機のみの機は僚機として割り当てられた。受信機だけでも完備されるようになり、ある程度の戦術的行動がとれるようになると判断した為か、42年9-11月にかけて編隊の構成を2グループのペアによる4機構成 (=独『シュヴァルム』と同様のもの) に移行している。
しかしながら折角搭載されるようになった無線機も、あまり有効に使われていなかったようだ。ソ連のパイロット達は今まで無線機交信による連携などを行っていない訳で、どのように使うかのノウハウも何も無い状態であった。こうなるのも当然と言えば当然だろう。
1943年のクルスク戦の頃に至っても無線機の使い方は稚拙なものであり、書籍『クルスク航空戦』によれば「初歩的な無線交信のルールも守られていなかった」という。一つの周波数で多数の無線機が可動する際、3~4名が同時に大声で通話を行い互いに声を打ち消し合う為、まともに交信が行えていなかった。それにより、「まともな交信が行えないなら」と、受信機のスイッチを切ってしまっているパイロットも居たという。
これはあくまでエピソードの紹介であり、全体としてはどうであったのかは分からない。部隊の練度によっても違いがあったり、うまく活用した部隊があった可能性もある。
大体1943年半ばには、全ての機体が送信機と受信機を備えるようになったと言われる。しかし1944年のYak-3では最初の生産ロット[註2]では、送信機が2機に1機であったと言う記述も見られた。一部ではまだ少し足りていなかったのか、割り当ての結果なのか、工場によって何かあったのかなど考えられるが、原因は不明である。初期ロットのみのことであり、少しすると全機が送受信機を備えた。
≪RSI-4≫の次に生産され始めたのは、≪RSI-6≫と呼ばれるものだった。これは1943年の遅く (何月頃かは不明) に供給が始まった。詳細なところは分からないのだが、Yak-3, La-7, La-9, Yak-11, Il-10などが搭載したという情報がある。
戦中の≪RSI-6≫は、RSI-6K送信機とRSI-6MもしくはRSI-6MU受信機の組み合わせによるものらしい。RSI-6Mは1943年に150基、1945年に5,600基作られた。1944年にはRSI-6MU受信機が1,666基作られている。また、戦後はRSI-6MU受信機の改良型がRSI-6M1として50年代初めまで生産されていた。
どれ程の機体が搭載したのかは不明なのだが、この戦闘機用機上無線機を爆撃機に追加装備することで護衛機との交信を可能としたという事もあったそうだ。
[註2]:原文ママ、"第1ロット/生産バッチ"とすると、数機からせいぜい十数機となると思うのだが……。最初のほうの数十~百機くらいという話なのだろうか?
◆戦闘機以外の無線機 (RSB, RSR)
あまり多くの情報は得られていないが、爆撃機や偵察機向けの無線機についても記載しておこう。
集められた情報は以上である。最初に書いた通り情報がかなり少なく、これだけ集めるだけでもかなり苦労した。各無線機の詳細までは掴む事が出来なかったが、ある程度の事情をうかがい知ることは出来たのではないだろうか。
勿論これは氷山の一角であり、見えていない部分も多くある筈だ。今後も調査を続けていくつもりである。
……いやでもこれたぶんこれ以上の事を知るのは厳しい気もします。はい。
最後に集められた無線機の情報を一覧としたものを掲載し、終わりとします。

【参考文献】
■世界の傑作機 No.138 WWII ヤコヴレフ戦闘機, 文林堂,(2010)
p. 79, 82
■世界の傑作機 No.143 ラヴォチキン戦闘機, 文林堂, (2011)
p. 53
■世界の傑作機 No.156 第二次大戦ミグ戦闘機, 文林堂, (2013)
p. 28
■世界の傑作機 No.133 ポリカルポフ I-16, 文林堂, (2009)
p. 93
■クルスク航空戦(下)南部戦区, 大日本絵画, (2008)
pp. 23-24
■モスクワ上空の戦い 防衛編, 大日本絵画, (2002)
p. 24および巻末資料
【参考ページ】
◆I-16 type5
http://www.airpages.ru/eng/ru/i16_5.shtml
◆ラジオについてまとめられたページ
http://www.rkk-museum.ru/about/abc_e.shtml
http://wunderwafe.ru/WeaponBook/Avia/Mig3/11.htm MiG-3関連
http://forum.qrz.ru/261-sredstva-svyazi-krasnoy-armii/32996-rsi-radiostantsiya-samolyota-istrebitelya.html
http://ww2aircraft.net/forum/showthread.php?t=43193&p=1201020
http://scalemodels.ru/modules/forum/viewtopic_t_6048_start_520.html
◆RSI-4(露)
http://military.trcvr.ru/2015/08/14/%D1%80%D0%B0%D0%B4%D0%B8%D0%BE%D1%81%D1%82%D0%B0%D0%BD%D1%86%D0%B8%D1%8F-%D1%80%D1%81%D0%B8-4/
◆RSI-6(露)
http://military.trcvr.ru/2015/08/14/%D1%80%D0%B0%D0%B4%D0%B8%D0%BE%D1%81%D1%82%D0%B0%D0%BD%D1%86%D0%B8%D1%8F-%D1%80%D1%81%D0%B8-6/
http://forum.qrz.ru/261-sredstva-svyazi-krasnoy-armii/30339-trebuetsya-pomosch-v-identifikatsii-nahodki.html
◆RSI-4A(露)
http://www.rv3bc.narod.ru/Stat/rsi4-1.htm
◆RSI-4T(露)
http://samlib.ru/s/s_a_w/radioelektopribory.shtml
◆Il-10(露)
http://www.airpages.ru/mn/il10_010.shtml
◆Yak-9M PVOの無線(露)
http://coollib.com/b/261705/read
◆フォーラム:RSI(露)
http://forum.qrz.ru/261-sredstva-svyazi-krasnoy-armii/32996-rsi-radiostantsiya-samolyota-istrebitelya.html
◆RSI-4関連?(露)16年5月17日追加
http://forum.oldradio.org.ua/index.php?topic=2348.0;all
◆MiG-3関連のフォーラム 無線機についてアリ RSI-4Dの記述アリ(露)
http://tsushima.su/forums/viewtopic.php?id=570&p=8
◆大祖国戦争における無線通信(露)
http://www.computer-museum.ru/connect/radio_vo.htm
◆Yak-1b 無線について-Airwar.ru(露)
http://www.airwar.ru/enc/fww2/yak1b.html
◆無線などについてのインタビューなどのまとめ?(露)
http://www.warmech.ru/war_weapon/radstationavia.html
◆無線機の一覧表(露)
http://wiki.airforce.ru/index.php?title=%D0%A1%D0%BF%D0%B8%D1%81%D0%BE%D0%BA_%D0%B1%D0%BE%D1%80%D1
コメントをお書きください
キンギョ (木曜日, 18 7月 2019 12:40)
爆撃機用の無線機はどんなものを使っていたのですか?
リーリヤスキー (日曜日, 21 7月 2019 22:21)
コメント頂きありがとうございます。
>爆撃機用の無線機はどんなものを使っていたのですか?
正直なところ戦闘機向け無線機以外はさっぱり調べていなかったので、あまりお出しできる情報はありませんが……少し調べた内容を書いてみます。
爆撃機が装備する無線機としては、"RSB"というシリーズがあったそうです。これは記事に書いた"RSI"と同じ命名スタイルで、「爆撃機向け無線機」の略から取られていました。
30年代から40年代にかけて使われたものには、RSB-bis (露:РСБ-бис)とRSB-3bis (露:РСБ-3бис)が確認出来ました。これらも記事中のRSIらと同じく、送信機の名前でありながら、送信機と受信機のセットの名としても使われていました。
RSB送信機のペアとなる受信機としてはUS(露:УС)というものが使われていました。汎用とスーパーヘテロダイン式の頭文字から取られているようですね。US(US-1)やUS-4といったバリエーションがあるようです。
RSB-bisは、SB, Pe-2, Pe-8, Il-4, Yer-2, Yak-2/4が搭載。RSB-3bisもおおよそ同じで、Tu-2が増えた代わりに、SBやYak-2・Yak-4が含まれていないくらいでしょうか?
爆撃機以外にはRSRという……偵察機向けのものもあったみたいですね。Su-2やLi-2が搭載したという情報くらいしか見つかりませんでしたが……。
現状お出しできるものは以上です。スペック等はロシア語で検索すると露語版Wikipediaや他ページで参照できると思います。
(このサイトを立ち上げて最初のコメント返しなので、返信をとりあえずコメント欄に書いてみましたが……もしかしたらコメント返し欄を記事のどこかに作って、そちらに移すかもしれません)
キンギョ (土曜日, 27 7月 2019 17:47)
コメント返しありがとうございます。プラモデル製作に無線機の情報が必要だったのですが、いろいろ調べても無線機の情報が見つからず、どうやって調べればいいのかわからなかったのです。おかげで露語ウィキペディアが見つかりました。ありがとうございました。