I-16とtipのカンケイ


更新履歴 (内容に変化ないものは除く)

[2022/04/17] 記事公開

はじめに

【注意!】
「俺はI-16のtip/Typeにしか興味がねぇんだ!」という方以外は、『LaGG-3とSeriesのカンケイ』を先にお読みいただけると、より一層理解が深まると思います。
Seriesやバッチ、シリアル規則などの話は、前
記事で既に把握している前提で進めますので、あしからず。

この記事は、言ってしまえば『LaGG-3とSeriesのカンケイ』で説明を省いた【タイプ】─『tip / Type』についての説明をするだけのものである。

 「一部のソ連機に付く『Type XX』って何なんだ一体……」という疑問を抱える方々の悩みを解消することを目的とするものである。

『tip』ってなんなの?

I-16とtipのはなし
冒頭から『tip』とよく分からない語を書いているが、「これは何なのか?」という話からしていこう。

『tip』の元は、露語の『тип』である。意味としては英語の『Type』と同じと思ってよいと思う。博友社のロシア語辞典を開いても「型, タイプ, 類型, 形態」とあった。辞書にそうあるなら、恐らく大丈夫だろう。

この『тип』という語を、英語圏やそれに倣った国内書籍では『Type』と置き換え、「I-16 Type XX」という表記をしている訳である。

なおこのHPでは『тип』は基本的に『tip』で統一しているため、この記事でもこちらをメインに表記するものとする。

さて、この『tip / Type』というもの、どういったところで見ることが多いだろうか?

恐らく殆どの人は、「I-16 Type XX」のように、I-16の派生型として目にしてきたことだろう。実際、多くの書籍やWeb上の記事においては、LaGG-3の『Series』と同様に、サブタイプと同じような扱いがなされていることだろう。

例を挙げると、スペインに初投入された『tip 5』だとか、ノモンハンで現れた新型『tip 18』や、最終生産型の『tip 29』などだ。I-16が登場するゲームなどでも、この『tip / Type』を見にしているかもしれない。ものによっては、この語を省略し『I-16-5』とハイフンで繋げて記述されているものもあった。

「して、I-16の『tip』とやらは、一体どれほどの種類が存在しているのか?」という話だが……よく目にするのは、『tip 5, 10, 18, 24, 29』くらいではなかろうか。もう少し詳しい書籍であれば、『tip 12』や『tip 17』辺りも紹介されているかもしれない。

長々と話をしても仕方ないので、実際のI-16の『tip』を見てみよう。派生型・試作型を含めると、以下の表のような『tip』らが存在しているのである。

I-16の『tip』一覧 (クリックで拡大)
I-16の『tip』一覧 (クリックで拡大)

白いセルが各種生産機、黄色で着色したのが不採用に終わった試作機である。

それぞれについては……流石にこの記事では説明できないので、画像の内容で満足いただければと思う。(前記事の『Series』くらいの解像度で話をすると、それだけで同人誌などが出来上がってしまうので……)

 

基本的には、エンジンを換装した主生産機―M-22搭載の『tip 4』, M-25V搭載の『tip 10』, M-62搭載の『tip 18』, M-63搭載の『tip 24』がメインで、それぞれから派生した20mm機関砲搭載機や、多様な試作機、そして複座練習機が存在している。上の表だけでは関係性の把握が困難であると思われるので、主生産機とその派生生産機―20mm機関砲搭載型、複座練習機 (UTI) の派生図を添えておこう。

I-16各種主生産型の派生図 (クリックで拡大)
I-16各種主生産型の派生図 (クリックで拡大)

上に掲載したI-16の『tip』一覧表を見て、見たことも聞いたことも無い機体たちに心惹かれていることと思うが、いったん表の一番上にある『tip 4』に注目して欲しい。

表の中で一番若い数字が "4" であることに、何かしらの疑問を抱いた人が居れば、なかなか鋭いと思う。この『tip 4』とは、何を隠そう「I-16で最初に生産された『tip』」なのだ。

 

「『tip 4』が最初だって?じゃあ『tip 1』から『tip 3』はどこに行ったんだい?」となっていることだろう。実のところ、『tip 1~3』はI-16の試作機でも何でもなく、全く無関係な存在なのである。だが、欠番という訳でもないのだ。

 

「何を言ってるんだ? 意味不明だし読むのやめるか」と戻るボタンを押されてしまう前に、次の項でネタ明かし、もとい解説をしよう。

◆『tip』の正体

早速『tip』とは何なのかの答えを言おう。『tip』とは、「第21工場で生産される航空機に割り振られた固有の番号」である。

前項では「I-16の『tip』を一覧にした表」をお見せしたが、今度は「第21工場の『tip』を一覧にしたもの」を見てもらおう。

第21工場の『tip 1~29』の一覧表 (クリックで拡大)
第21工場の『tip 1~29』の一覧表 (クリックで拡大)

I-16の『tip』は "29" まであるので、ひとまずそこまでを表とした。前の表と同じく、白はI-16の生産機、黄色はI-16の試作機だ。そして、新たに青く色が付いているのが、I-16以外の生産機である。表の中では、1, 2, 3, 7, 25が割り当たった箇所がそうだ。

この表を見れば、「第21工場で生産される航空機に割り振られた固有の番号」というのも、いくらか分かりやすいだろうか。

第21工場が最初に生産した航空機はI-5であり、これに『tip 1』が割り当てられた。続いて、2番目に生産が行われることが決まったI-14 [註1] に『tip 2』が、3番目のKhAI-1という旅客機が『tip 3』となった。そして4番目が『I-16』となったため、最初の生産モデルに『tip 4』が割り当てられ、この名で生産がされることとなったのである。

第21工場はI-16の主生産工場となったため、1940年にLaGGなどの機体を生産し始めるまでの間、いくつかの試作機も少数作りながら、多種多様なI-16の派生機を生産し続けていたのである。「エンジンを変えた」「武装を変えた」「練習機にした」など、仕様の異なるI-16を生産するにあたり、『tip 10』や『tip 27』といった固有の番号を割り当てて生産していったので、上記の様なこととなったのである。

I-16の最後は『tip 29』で、これを最後に第21工場の生産ラインはLaGG-3に切り替わっていった [註2]。1つずつ説明するのもなかなか骨が折れるので、こちらもリストにしてお見せしよう。

不明だったり、情報はあるが不確かなものなどは、グレーで色を付けている。

第21工場の『tip 1~53』の一覧表 (クリックで拡大)
第21工場の『tip 1~53』の一覧表 (クリックで拡大)

I-16の次は、パシーニンの試作戦闘機I-21 (局内名称IP-21) が『tip 30』に、続いて第21工場の主生産機となるLaGG-3に『tip 31』が割り当たった。

少し間が空いて、『tip 37』から『tip 51』までは、主に空冷のLaシリーズの機体がメインとなる。この辺り文字では分かり辛いと思うので、以下のようにまとめてみた。

最初のLa-5から、La-5FのSeries 8 (=第8バッチ) までの機体は、LaGG-3と同じ一体型風防で作られており、これらは『tip 37』とされていた。胴体後部を再設計し、半突出型としたことで後方視界を改善したものは『tip 39』とされた。エンジンがM-82からM-82F、またM-82FからM-82FNに置き換わっても、『tip』は同じままというのが興味深い。

またLa-5FNも木製の桁なものは依然『tip 39』で、これが金属製に置き換えたものは新たに『tip 41』が割り当てられた。なので、La-5FNには『tip 39』のものと『tip 41』のものがある訳だ。

pic01 (左/上):LaGGと同じ一体型の風防を備えるLa-5なので、これは『tip 37』である
Photo from:http://www.airwar.ru/enc/fww2/la5.html
pic02 (右/下):風防後部を再設計し視界が改善されているLa-5F、つまり『tip 39』だ
Photo from:http://www.airwar.ru/enc/fww2/la5f.html

残るLa戦闘機シリーズは、戦後に生産された『tip 48』のLa-9、および『tip 51』のLa-11がある。

また、La-5, 7, 9, 11らの合間には、戦闘機を複座練習機としたUTI (露:УТИ) が挟まっている。『tip 43』のLa-5UTI、『tip 46』のLa-7UTI、『tip 49』のLa-9UTIがそうだ。

最後に『tip 52』と『tip 53』、ここからはジェット機の時代に入る。52はラヴォチキンのジェット戦闘機であるLa-15で、53はミコヤン・グレヴィッチのMiG-15bisとなった。正直この記事で扱う『tip』は51までのつもりだったのだが、たまたま目に入ったので入れておいた。

さして興味が無いので調べていないが、これ以降も生産機に『tip』を割り当てていたのではないだろうか。


[註1]:I-14とはツポレフの試作戦闘機で、I-16と主力戦闘機の座を争った機体である。全金属製であり、ライバルとは別ベクトルで新規性のある機体だった。試験のため少数生産しようということで、第21工場が生産工場に指定されたのだが、諸事情あって実際には生産されることが無かった (別の工場で作ることになった)。

[註2]:「I-16からLaGGに切り替わった」と言っても、生産しながら順次ラインを置き換えていたので、LaGG-3を生産し始めた頃にもI-16は作られていたのであるが。

◆『tip』はサブタイプなのか?

しばしば『tip』は『Series』と同じく、派生型の欄や説明でサブタイプのように扱われているのを目にする。『Series/バッチ』については前記事にて、「一定数を生産したら自動的に次に進むもので、変更をするにあたって新たな数字が割り当てられるというわけではないためサブタイプではない」とした。

では『tip』はどうだろうか。

 

ここまでに書いたものを読めば分かる通り、サブタイプではない……が、ほぼ同じ扱いをしても特に支障はないだろう。

確かに『tip』は、第21工場での生産モデルの番号であり、I-16やLaなどの派生型であることを示すものではない。しかしながら、「新しい仕様/モデルを生産するにあたり、新たな数字を割り当てる」というのは、サブタイプと同じ手法であり、その『tip』である限りその機体の仕様は基本的に同じはずである (生産バッチ単位の僅かな差異はあるが)。少なくともI-16に関しては、『tip』をサブタイプとして扱う事に何の問題も発生しないと思われる。

書籍などでこれまで扱われてきた通りに、今後も使用していけばよいだろう。わざわざ「I-16の第21工場で生産するにあたりtip XXとされた仕様の機体は~」みたいなことを書くのは、誰も幸せにならない。

 

一方で他の機体では、サブタイプみたく便利に扱うというのは少々難しそうだ。

LaGG-3の主生産型は全て『tip 31』であるし、Laシリーズも「胴体後部と風防の形状が違う」か、「翼桁の素材が違う」という大雑把な分け具合。他も1機種に対し1つの『tip』の割り当てなので、I-16以外ではあまり有用ではないだろう。実際Laシリーズの解説で、『tip』単位で派生型の説明をするものは殆どない。基本的にエンジンの違いなどで区別している。

◆第21工場のシリアル規則 -【タイプ】のはなし

このあたりで、前記事のシリアル規則解説で省略した箇所の話をしておこう。

前の記事はLaGG-3及びSeriesについての説明がメインであり、『tip』─前記事では【タイプ】と書いた─については、「LaGG-3はtip 31だ!」という説明だけで済ませてしまった。実際ほぼそれだけの話なのだが。

第21工場のシリアル規則において、『tip』は先頭に位置する要素である。なので、生産された機体のシリアルには、その機体の生産時の仕様=『tip』の番号が先頭に付与される。

上の使いまわしの解説図でいえば、これはLaGG-3のシリアルであるため、先頭に『tip 31』が付いている訳だ。KhAI-1なら『3』、一体型風防のLa-5であれば『37』、La-7UTIなら『46』となる。I-16も『tip 10』なら『10』が付くし、『tip 24』なら『24』が付くだけのことである。

◆ほかの工場での『tip』

『Series』と『tip』で一つ違うところがある。それは、『Series』は工場間で関係を持つことは無いが、『tip』は他の工場とかかわりを持っていることがあるというところである。

まずI-16で例を挙げてみよう。当機は第21工場の他にもいくつかの工場で生産されていた訳だが、中でもUTI-4 (I-16の複座練習機型) は、第153工場と第458工場でも生産されていた。これらの工場での生産時、シリアル規則は第21工場と似通ったもので、同じ『tip』─UTI-4の場合は『tip 15』─を使用していた。

  • 第153工場製:15153404 
  • 第458工場製:154582511

頭に『tip 15』の15、続いてそれぞれの生産工場の番号があり、後半は生産番号となっている。他の『tip』でも同じように工場間で共通のものを使用していたようである。

Laシリーズでも、第99工場が第21工場と同じ『tip』を使っていたようで、以下の様なシリアルが確認出来ている。

  • La-7 (=tip 45):45992104
  • La-9UTI (=tip 49):49990609

I-16は広く共通の『tip』が各工場で用いられたと言うが、Laではあまりそうでもないようで、第381工場は第21工場風のシリアル規則や『tip』を取り入れず、独自のシリアルで生産をしていた。

詳しくはシリアル規則を調べまとめているページを参照のこと。

まとめ

オミットした『tip』の説明だけで、まさかここまで長くなるとは思わなかった……。

今回も特にこれ以上の感想などは無いので、前記事のように今回の話をまとめて終わろうと思います。

  • I-16などで見かける『tip』は、第21工場が生産機に付けた固有の番号である
    • tip 4は4番目の生産機であったことから付いたもの
    • tip1-3はI-16以外の機体に割り当たっていた
  • 『tip』はサブタイプではない
    • 付けられるタイミングはサブタイプと同じ
      • I-16は細かく『tip』が付けられたこともあり、同様に扱っても問題はない
      • 以降の機体は大雑把な分け方なので、サブタイプとして使うのは正直不便
  • 『Series』と違い、他の工場でも共通の『tip』番号が使われることがあった
    • I-16やLaシリーズで例が見られた
    • 同じ機種を作っていても、『tip』を使っていない工場もあった

以上、『tip』とは何なのか、I-16の『tip』、第21工場の『tip』についてでした。

Special Thanks★

たい氏:tip 7, 23, 26, 30の情報を頂きました。いつも頂くばかりでスミマセン……ありがとうございます。


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<参考リスト>

=書籍=

■『世界の傑作機 No.133 ポリカルポフ I-16』, 文林堂, (2009)

pp. 23-24, p. 40, 60

■『Polikarpov Fighters In Action Pt.2』, Squadron/signal publications (1996)

p. 7, 11, 20, pp. 28-29, p. 31, 37, 39, 42, 44, 47

■『Soviet Combat Aircraft of the Second World War Volume One: Single-Engined Fighters』 (1998)

pp. 100-103, p. 111

■『Lavochkin Fighters of the Second World War』Jason Nicholas Moore, Fonthill Media (2016)

◆各tipまとめ (書籍以外の参考)

・tip 7:'7211'

http://www.airwar.ru/enc/fww2/i207.html

・tip 9:I-16Sh

https://airpages.ru/ru/i16op.shtml

・tip 19

https://airpages.ru/ru/i16op.shtml

・tip 23 (I-16-10 RS-82) / 26 (UPO-2)

https://www.skycentre.net/topic/11986-%D1%8D%D0%B2%D0%BE%D0%BB%D1%8E%D1%86%D0%B8%D1%8F-%D0%B2-%D1%81%D0%B0%D0%BC%D0%BE%D0%BB%D0%B5%D1%82%D0%BE%D1%81%D1%82%D1%80%D0%BE%D0%B5%D0%BD%D0%B8%D0%B8/page/23/?tab=comments#comment-321304

・tip 30:I-21

http://www.airwar.ru/enc/fww2/i21.html

・tip 33&38:LaGG-3 NS-37 (tip 38)・Sh-37 (tip 33)

http://www.airwar.ru/enc/fww2/lagg3-34.html

https://testpilot.ru/russia/lavochkin/la_list.php

・tip 52:La-15

https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9B%D0%B0-15

◆ほかの工場での『tip』

・UTI-4 (Z.153, 458) のサンプル

https://massimotessitori.altervista.org/sovietwarplanes/pages/i16/uti4/uti4.htm

・La-7 (Z.99製) のシリアル

https://military.wikireading.ru/23209

・La-9UTIのシリアル

■Encyclopaedia of Soviet Fighters

p. 189