LaGG-3とSeriesのカンケイ


更新履歴 (内容に変化ないものは除く)

[2022/04/24] Series 66の設計は第21設計局であったため、工場と変更の導入周りの記述を修正。評価フォームに頂いていたメッセージに返信。
[2022/03/06] 読みやすさを少し改善すべく全体的に見直し。
[2021/12/31] 新規作成。

今回は、ラヴォチキンらによって設計された全木製機─LaGG-3についての記事である。

……といっても、その活躍や構造などの話ではない。書いておいて何だが、LaGGについての記事というのも、少し違う。

もちろんLaGGについての話もするのだが、今回のメインは『Series』である。「ソ連機全く知らんわ!ガハハ!」という人は別として、LaGGについての話や解説をいくらか読んだりした人ならば、何度か見かけたりしているのではないだろうか?

例えば、『Series 8』やら『Series 35』やら、何かよく分からない数字が派生型として挙げられていたり、他には「最終生産型のSeries 66は...」という文言も一度は目にしたことがあるはずだ。

この『Series XX』という型分けだが、不思議と同期のYak-1やMiG-3では見ることは無い。他のソ連機も同様なことと思う。(もし見てると言う人が居ても、そのまま読み進めて欲しい)

ではこの『Series XX』とは、LaGG独自のモノなのだろうか?

数字はどのような基準で選ばれたのだろうか?

そもそも『Series』とは何の意味を持つのだろうか?

これはサブタイプなのか?

 

本記事は、各Seriesの情報を並べるだけでは終わらせず、上記のような疑問を解消することを目的とするものである。

Seriesって何なの?

◆Seriesの正体

冒頭にも書いた通り、LaGG-3と言えば『Series』という語と『特定の数字』が添えられている事が多い。例を挙げると、『Series 11』だとか『Series 35』『Series 66』などだ。これは一体何だろうか?

一言で言ってしまうと、これは『生産バッチ』である。もう少し詳しく言えば、「第21工場で生産された機の生産バッチ」がおおよその正しい答えとなるだろう。これも100%完璧とは言えない答えではあるのだが、その辺りは順を追って説明していく。

「第21工場で生産された機」としている理由は、「生産機の改修の指揮を取ることとなったラヴォチキン氏が、第21工場内の第21設計局 (OKB-21) に居たから」という、簡単な話だ。

LaGGは第21工場のほかに、第23工場, 第31工場, 第153工場で生産されることになっていた。だが、各々の工場が勝手に改修を加えてしまったり、互換性に欠ける変更が加えられてしまうと、前線や修理デポなどでトラブルが発生してしまう。

そのため、第21設計局が設計した変更は、まずは第21工場が生産ラインに取り入れ、その後に他の工場が同様の変更を追って取り入れていくと言う段取りとなっていた。

無論、これにより変更の導入タイミングにはズレが生じる。そのため、たとえ同じ時期に作られた機体であっても、第21工場と他の工場では異なる仕様で生産されていることがあるのだ。

◆第21工場のシリアル規則

さて、続いては第21工場におけるシリアルの規則の説明をする。急に何の話をするんだとなるかもしれないが、先に書いた『Series』『バッチ』という話に関わるものなので、そのまま読み進めて欲しい。

第21工場のシリアルは以下のように、『タイプ』『工場番号』『バッチ』『生産番号』の4つの要素によって構成されている。それぞれ順に見ていこう。

(↑クリックで拡大)
(↑クリックで拡大)

先頭に位置する2桁は『タイプ』を示す。これは「第21工場で生産される航空機に割り当てられた番号」で、LaGG-3には[31]が割り当たっていた。

本記事においては、この『タイプ』についてはあまり重要でないため、詳細は省くこととする。他の番号に割り当たっていた機体については、別の記事で詳しく取り扱うつもりだ。

この記事の中では、LaGG-3=Type31 (露:тип 31) ということだけ知っていれば問題はない。

次は『工場番号』だが、これは単純に「製造した工場の番号」のことである。今回は第21工場であるので、[21]が入る、以上。

ここまでの2要素は固定の数字となっている。つまり第21工場製のLaGG-3のシリアルは、[3121]より始まるという訳である。[3121XXXX]といった感じのシリアルを見た時には、99.9%そう思ってよいだろう。

3つ目が、当記事で一番重要な要素となる『バッチ』だ。この項の頭にも書いた通り、「Seriesとはバッチ」である。上記の図の例のうち、上のシリアルサンプル①ではバッチが[4]となっているので、これは『Series 4』な訳だ。

では下のサンプル②は……バッチが[31]となっている。

「はて、『Series 31』? そんなLaGGの型があったか?」となった人は、LaGGにちょっと詳しい人なのだと思う。それについてはこの後説明するので、安心して欲しい。

ここではひとまず、「工場の番号[21]の次はバッチなんだな」ということだけ頭に入れて次に進もう。

最後に『生産番号』である。これは前項の『バッチ』とリンクしており、「このバッチの中で何番目に生産された機体であるか」を示している。

図の例では、上のサンプル①は「第4バッチで作られた中の22番目の機体」。下のサンプル②は「第31バッチで作られた中の73番目の機体」となる。知ってしまえば簡単な話だろう。

以上が第21工場のシリアル規則の全貌である。これはあくまで第21工場だけの規則であり、シリアルの規則は工場によって異なるので、これがソ連機のシリアル規則という訳ではない事に注意。各工場のシリアル規則については、[こちら]のページで調査結果をまとめているので、興味があればこの記事の後にでも。(この記事の途中で見に行っちゃ駄目だぞ)

さて、この第21工場のシリアルにおいて注意が必要なのが、『バッチ』と『生産番号』の桁数である。これらの要素は最大二桁で表されたわけだが、大変困った事に、これらが一桁だった時に0埋めをしなかったのである。

図中の上のサンプルがそうであるが、第4バッチは[04]ではなく[4]と記されている。そのせいで『バッチ』か『生産番号』のどちらかが一桁だった時に、どちらが何桁なのかを注意する必要があるのだ。

とはいえ基本的にシリアルが出てきたときには、機体の写真かSeriesが何であるか書かれていることが多いので、あまり怯えなくともよいだろう。 (どちらも無かったときは、時期とかから判断するほかない……)

なおLa-5以降はどちらも二桁で0埋めを行うようになった (第4バッチは[04]ということ) ので、こうした問題は解消されている。工場か前線か修理デポか、どこからか苦情が出たのだろうか。何にせよ、こうしたものを解読する後世の我々にはありがたいことである。

◆『Series』はサブタイプなのか?

この小タイトルに対しては、「バッチはサブタイプとは違います~」で終わる話ではあるが、それだけでは流石に説明を欠き過ぎているので、しっかりと話をしておこうと思う。

 

まずサブタイプについてだが、これは一般的なもので説明は不要だと思う。例を挙げるならば、P-47のD-1-REやD-20-REだとか、Bf109であればE-3やG-6といったもののことだ。ソ連機ではあまり見ることは無いが、ほとんどの国はこれらを使って機体の型を分別していることだろう。

 

バッチとは、ある一定の数の生産単位のことである。これは機体や工場、時期によっても変わるが、第21工場のLaGG-3の大半のバッチは100機単位となっていた [註1]。単発戦闘機は初期を除き、大体100機単位のようだ。

 

これらを踏まえた上で改めて言うと、『Series』はサブタイプではない。サブタイプは機体に新たな変更が加えられるのに際して、新たな形式が付与されるのに対し、バッチは規定数を生産したら変更の有無や大小とは関係なしに自動的に次の数字へと進むものだ。なので、前後のバッチで何かしらの変更があるとは限らないのである。

流石にバッチごとに100機も幅があるので、ごく小さな変更はあるだろうが、大きく性能に影響するような、他国で言えばサブタイプなどが設けられるような変更が加えられているとは限らない。そして、たとえ変更があったとしても、そのバッチの1番目の生産機から変更が加えられる訳ではない。そのバッチ中の後半の生産機で変更が導入されたという事もありうるのである。

 

とはいえ、毎度「バッチXXの第〇〇番機から変更が…」などとしていると大変なので、そう細かくいうものではないだろう。上記のような事を念頭に置いて扱えば、何も問題は……あると言えばあるのだが、まぁよいだろう。言葉を濁した理由は後ほど。


註1:第21工場のLaGG-3は、Series 1が10機、Series 2で65機、Series 3は125機となり、Series 4以降は100機単位に落ち着いたようだ。生産の立ち上げの時期、最初の方のSeries/バッチでは小規模な数となっていることが多い。他の工場では、10とか20くらいのものが続いていたりする。第21工場は生産能力が他より高かったため、早々に100機単位に達したのだろう。

◆『Series』に付く数字―4, 11, 29, 35等の数字はどういう規則のもの?

『Series』は『バッチ』である。『バッチ』とは100機単位で生産されるひとまとまりのこと。じゃあ本などで見る『Series 4』とか『Series11』、『Series 35』みたいな数字は、どこから来たのか?

まずそもそもの話として、前項で書いた通り、バッチの番号は規定数生産したら自動的に次に進むものであり、特別な例を除いてこの数字は連番となる。P-47のサブタイプ──P-47C-2-REの次がC-5-REになる──の様に番号が飛ぶことは、基本的にはない。『Series 8』の次は『Series 9』だし、その後も10, 11, 12...と続いていく。

じゃあ派生型やサブタイプの様な形で、上からずらりと並べられるあれらの数字は何かというと、「大きな変更が入ったSeries/バッチ」……という事になっている。

「という事になっている」というのは、実際には違うものがあるためだ。一部の変更は、実際にはその番号の前後のバッチで導入されていたりして、当該する『Series』の説明で書かれる情報と一致していないものがある。これについては記事終盤に紹介している各Series情報を参照のこと。

※図中の[・・・]は省略しているだけで、番号が飛んでいる訳ではない
※図中の[・・・]は省略しているだけで、番号が飛んでいる訳ではない

また、書籍・Web上で用いられる『Series 1』や『Series 11』というのは、当該の生産バッチの番号だけでなく、そこから次の大きな変更の入った (としている) 番号までを一括りとして扱っているのだ。

上の図に示す通り、『Series 1』はバッチ1から3までで、『Series 4』はバッチ4から7……という具合で、その後も同様だ。

ここまでの説明があれば、"第21工場のシリアル規則"の項で出していたシリアルのサンプル2─[31213173]の第31バッチの謎が分かった事だろう。Series 1, 4, 8, 11, 23, 29, 35...の様なものは、単に書籍や記事などが実際のバッチ情報でなく、大まかな分類として一部Seriesを使っていたというだけのことなのだ。

なので、例えば写真のキャプションに「Series 29の機体である」と書いている機体も、実はSeries 30/第30バッチだったりするかもしれないし、もっと後に作られたものかもしれないのである。サンプル2の第31バッチは、Series 29の機体と扱われることだろう。

なお他のLaGG生産工場──第23工場, 第31工場, 第153工場の機体たちも、それぞれの工場のSeries/バッチが割り当てられている訳だが、それらは第21工場やその他工場のものとは特に関係を持っていない。第21工場のSeries 4と第31工場のSeries 4は異なるものであるし、第21工場以外での生産機のバッチが書いてあっても、それは第21工場の同じバッチの機体とは仕様が異なっている筈だ。これだけは注意が必要だ。

◆『Series』はLaGGのモノ?

頭の方で、「Seriesという型分けは、同期のYakやMiGでは見ないが……」といった感じの事を書いた。それは確かにそうなのだが、それはLaGG以外ではSeriesが存在しないということは意味しない。

バッチごとに何かしらの差異があるのは、当然ながらLaGG-3に限った話ではない。一般的な書籍やWeb上の記事などではあまり表に出てこない (使われない) だけで、詳細な改良時期の話においては登場することがあるものなのだ。

Yak-1も、MiG-3も、Laシリーズも。そして戦闘機だけではなく、襲撃機や爆撃機もそうだ。特にPe-2などは、LaGGと同程度に『バッチ/Series』を元にしたモデルの分類が行われている。全てがそうという事は断言出来ないが、ある程度の機数 (数百機単位?) で生産された機体であれば、バッチごとの違いがあることだろう。

他機のバッチの例を挙げるなら、「第153工場製のYak-7Bは、第22バッチからM-105PFエンジンを装備し始めた」し、「MiG-3は第19バッチで自動前縁スラットを導入」している。「La-5Fの第9バッチから風防が突出型になった」というのは、国内の書籍などでも目にするものだろう。

このように、探せば他の機体でもSeries/バッチの情報はあるものだ。であるにも関わらず、何故LaGGでだけ広く『Series』が使われているのか。

恐らくは「単純に慣例的なもの (参考書籍がそうだったから)」、「LaGG以外は派生型が多く、バッチまで書くスペースが無い (逆にLaGGは派生機に乏しいので、Seriesで埋めたい)」、「そこまで詳しい情報を書いても国内では需要が無い」、「ライターがそこまで把握してない」辺りの複合的な理由だろう。

pic01:『IL-2 Sturmovik : Battle of Stalingrad』より、機体選択画面。赤枠で囲った機体の"ser.XX"がSeriesである。

国内の書籍では『Series』の情報が取り入れられない一方で、近年ではゲームやフライトシムで『Series』が取り入れられつつある。筆者はIL-2シリーズしかプレイしていないので、それのスクリーンショットしか用いることが出来ないが、pic01にある様に各機体のモデルの違いを『Series (Ser.)』で分けている。

また、『Series』という文字でなく、ハイフンで繋いで書いているものなども散見される。もしかすると人によってはソレを『Series』と認識していないだけで、目にしたり無意識に使っているかもしれない。

LaGGのSeriesについて

最後にLaGGの各Seriesの紹介をしていこう。

"『Series』に付く数字―4, 11, 29, 35等はどういう規則のもの?"で書いた通り、以下のSeries情報は実際にそのSeries=生産バッチで導入されたものとは限らない。「このSeriesの前後はこんな特徴を持っていたんだなぁ」くらいの感じで思っていた方が良いだろう。

Series 34は少し特殊であり、また不明瞭な点があり調査中なので、下記には含んでいない。今後追加予定。

◆第21工場製の主要なSeries

【Series 1】

  • I-301よりも集合排気管を延長。
  • 方向舵の上下にマスバランスを有す (I-301にはない)。
  • I-301で主翼上部付け根にあった小さな膨らみを削除。
  • 翼付け根インテークは楕円形。
  • 左舷側前縁中央部に着陸灯を装備。
  • 尾輪の直径を拡大し、空気抵抗を減らすために尾輪付け根に整流カバーを追加。
  • コクピット後部に短めのアンテナマストを有す。
  • エンジン:クリーモフ M-105P (離昇1,050hp) を装備。
  • 武装
    • モーターカノン:UBS 12.7mm機関銃
    • 機首上部1:UBS 12.7mm機関銃 2挺
    • 機首上部2:ShKAS 7.62mm機関銃 2挺

【Series 4】

  •  1941年7月ごろ生産開始。
  • 排気管後部に貼られた耐熱パネルの形状が、丸みを帯びたものから円錐形に変更。
  • ラダー下部のマスバランスを削除。
  • エレベータータブを拡大。
  • 背の高いアンテナマストを装備。
  • 翼付け根インテークが楕円形から長方形に変更 (初期生産機は楕円のまま生産された)。
  • 多くが尾輪を固定式で生産される (一部は格納式)。
  • エンジン:クリーモフ M-105PA (離昇1,050hp) へ換装。
  • 武装
    • モーターカノン:ShVAK 20mm機関砲 (導入はSeries 2, もしくはSeries 3の76号機からとも)
    • 機首上部1:UBS 12.7mm機関銃 1挺 (1挺削除)
    • 機首上部2:ShKAS 7.62mm機関銃 2挺

翼付け根インテークの形状変更は、参考とした書籍では具体的な情報が無かったので、そのまま「初期生産機は~」と書かせてもらった。恐らく第4バッチの途中か、その次の第5バッチ辺りで導入されたのだろうと思われる[独自研究]。

モーターカノンの変更はカッコ内に書いた通り、Series 2とするものとSeries 3とするものがあった。少なくとも導入はSeries 4ではない可能性が高い。

【Series 8】

  • 1941年後半に生産開始。
  • 軽量化のため機首上部のShKAS 7.62mm機関銃を削除。
  • 一部はVYa-23 23mm機関砲を有する (スピナー先端から露出する砲身が少し長い)。
  • 一部生産機はAFA-I 航空カメラを胴体内に備える。
  • 武装
    • モーターカノン:ShVAK 20mm機関砲 (一部はVYa-23 23mm機関砲)
    • 機首上部:UBS 12.7mm機関銃 1挺

機首ShKASの削除はSeries 11で行われたとする資料もある。

VYa-23はSeries 8だけでなく、砲と弾薬さえあれば以降のSeriesの機体でも使用可能であった。ただし、この機関砲はIl-2の主兵装なこともあり、LaGGに供給されることはあまり無かった。

【Series 11】

  • 燃料搭載量を260kgに減少 (外翼の燃料タンクを削除、タンクを5個から3個に減)。
  • ラジエーターフェアリング後部を拡大 (初期生産機は以前と同じ形状で生産された)。
  • 一部は翼下にDZ-40多目的ラックを有する (80ℓ増槽や50kgまでの各種航空爆弾を搭載可能)。
  • 一部はRO-82ロケット弾発射レイルを有する (RS-132ロケット弾も使用可能)。
    • 導入は第12バッチの97番目の生産機からとするものがあった。
  • 1942年の冬季生産機は固定式のスキーを有する。

航空機銃の装備に変化はなし、以降も特筆ない限り同様。

なおRO-82レイルは生産時に装備されていなくても、後からキットを用いて装備が可能であった。ロケット弾装備=Series 11ではないので注意。

【Series 23】

  • 1942年夏まで生産された。
  • 垂直だったラダーヒンジのラインが、上部に前傾ラインが加わる (ホーンバランス実装)。
  • ラダー上部のマスバランスを削除 (初期の生産機はマスバランスが付いたまま)。
  • 一部生産機はVISh-105Vプロペラと新型スピナーを有する (標準化されるのはSeries 33から)。
  • 一部生産機は排気管終端が翼端方向に折れ曲がり、排気を胴体から逸らしていた。この場合耐熱パネルは装備していない。

【Series 29】

  •  1942年6月に第21工場と第31工場で生産された。
  • 排気管が片側3本に変更、耐熱パネルを削除。
  • 一部生産機は格納式スキー脚を有する。
  • プロペラはVISh-61PとVISh-105Vが混在、スピナーもそれぞれ異なる (Series 23を参照)。
  • エンジン:クリーモフ M-105PF (離昇1,210hp) を装備。
    • 導入開始はSeries 28の途中から、Series 29で全機に完備となる。

【Series 33】

  • 基本はSeries 29に準ずる。
  • VISh-105Vプロペラと大型スピナーが標準化される。
  • 水平尾翼に変更が加わる。直線だったエレベーターのヒンジラインが曲線を帯びたものとなった。

変更内容の小ささからか、一部書籍や記事では登場しないことがある。

【Series 35】

  • 失速特性の改善を目的として、翼前縁に金属製の自動スラットを有する (実装自体はSeries 34から)。
  • 右舷ピトー管が前縁から翼下に移動 (前縁スラット実装のため)。
  • 胴体下部のラジエーターインテークが金属製になり、拡大されている。
  • ラジエーターのフェアリングも拡大。
  • 翼付け根インテークはSeries 4と同様楕円形に戻る。
  • エレベータートリムタブが拡大される。

一部書籍や記事では、「Series 35は1942年8月から1943年春にかけて、Z.31でのみ製造された」としている。しかしながら、後のLG-3となった機体のシリアルが[3121357] (=Tip 31, 第21工場, 第35バッチ - 7番目の生産機) であり、第21工場製のSeries 35が存在することは明らか。他にも同工場製の35~37バッチの機体シリアルが確認されているため、誤りだと思われる。

以上が第21工場の主要なSeriesである。

ん?「Series 66が入って無いじゃないか」って?

 

それはそうである、何故なら『Series 66』は第21工場の生産機ではないからだ。

という訳で最後のLaGG生産工場と『Series 66』の話に移ろう。

◆第31工場とSeries 66

『Series 66』と言えば、「最終生産型の...」と書かれることがある、とても有名なSeriesである。だが実のところこれは第21工場ではなく、第31工場の『Series/バッチ』の生産機なのだ。

第31工場の名は、LaGGを生産した工場の話などで何度か出していたが、実はここはLaGGを最後まで生産し続けた工場だったのである。

 

同じくLaGGを作っていた工場のうち、第23工場はドイツ軍の侵攻により後方に疎開し、その後LaGGを作ることは無かった。第153工場はLaGGよりもYakシリーズの生産を優先することが決定されたため、LaGGの生産を終了、ラインをYakに切り換えていた。そしてLaGGの主生産工場だった第21工場も、空冷化されたLa-5の生産をメインとすることとなったため、LaGGの生産から離脱してしまった。

 

残ったのは第31工場だけである。本工場も一度はLa-5の生産を開始したのだが、それらはほんの僅かな数にとどまり、LaGGを継続して生産し続けた。

LaGGの改良に努めていた第21設計局は、最後に更なる改良モデルを設計し、それが第31工場に伝えられた。そしてこのモデルを生産する際に、第31工場のバッチにある変化があった。それまで1から20番台の後半まで続いていた生産バッチを、急に60番まで飛ばしたのである。バッチは”基本的に”飛ぶことは無いと上の方で書いたが、その例外がコレである。

理由は不明だが、50番台はLa系に割り当てていたという話もあり、これと被る事を避けるために、50番台の次の60番台まで飛ばしたのかもしれない [独自研究]。

 

この時の改良モデルというのが、LaGG最後の大型改修型―『Series 66』[註2] なのだ。

【Series 66】

  • 1943年の春に生産開始。
  • Yak-1bに施されたものと同様の空力洗練を機首に加えた。
    • オイルクーラーインテークと排気管が共通化。
    • 排気管は片側4本。
    • パイロットの幻惑防止シールドも排気管の上に配されている。
    • パネルラインも変更。
  • Series 1から左舷側に装備されていた着陸灯が削除される。
  • 翼付け根インテークが再び楕円形に変更、初期型と似るがより大きい。
  • 翼下多目的ラック (DZ-40) に水滴型の整流カバーを追加 (La系と同一のもの?)。
  • 胴体下のラジエーターフェアリングを形状変更し縮小。
    • 初期生産型と同じサイズに戻される。
    • 素材も金属から木製に戻される。
  • 正面の固定風防がLa-5と同じ平面形のものを採用。
    • 防弾ガラスの有無については諸説ある (ない/ある/後期型はあるの3パターンを確認)。
    • なお防弾ガラスを有するSeries 66の写真は確認出来ていない。
  • 風防可動部のフレームが拡大。
  • 主構造部に使用されていたデルタ材を廃止、通常の松材に置換 (La系でも同様の変更が行われている)。

以上が『Series 66』の主な変更である。LaGGベースの発展型であるLa-5を取り入れているのも面白いが、全く別の設計であるYak-1bまでもというのは大変興味深いところ。同じエンジンその周辺の構成も似ていた為出来たのだろうか?[註3]

 

なお「『Series 66』は最終バッチ」と書くものもあるが (筆者も何度か書いたことがある)実際には最後のSeries/バッチではない。第31工場は1944年7月までLaGGを生産し続けたのだが、その生産バッチは70番台にまで達していた。確実にこれが最終バッチというのは分かっていないが、第72バッチまでは確認されており、これが真の最終生産バッチである可能性がある。もしくは第73バッチだろうか。確かなのは、66は最後の数字でなく、70番まで続いているということだ。

とはいえ、『Series 66』が最後の大型改修であったことは確かなので、これまで通り「最後の生産モデル」くらいの言い方はしてよいと筆者自身は思う。「最終生産バッチ」は誤解を生むのでやめた方が良いと思うが。

◆「LaGGの生産型は66種類にもおよんだ」という説明は正しいのか?

LaGG-3のSeries 66──実際には72くらいまであるのだが──というのは、ソ連機の中でも多いのだろうか?しばしば「66もの~」という書かれ方をするSeries (=バッチ番号) だが、実際の所はどうかという話もしよう。

そも、「66種類の生産型」というのが大きな勘違いをしているところだが、それはここまでの項で述べている通りだ。1つ1つのバッチに対して変更が入った訳ではないし、バッチは100機作ったら自動的に進むだけの数字だ。そしてバッチ番号も、66という数字は第31工場で飛んだバッチ番号で、30から50番台は欠番となっている (50番台はLaに使われたらしいが) から、1から66 (72) まである訳でもない。明らかな間違いと言える。

◆「66」というバッチ数は傑出した数字なのか?

仮にバッチが66もしくは72まで連番であったとして、「このバッチ数はソ連機の中でも多いものなのだろうか?」という話もしておこう。

実際のところ、別にそんなことはない。1940年から1944年まで生産がされていて、工場単位でも41年から44年までと、ソ連機の中でも長く生産された戦闘機であるとはいえ、その生産機数は6,000機ちょっとだ。

おおよそ同じくらいの期間にそれ以上の数が生産されたYak-1は、66 (72) を軽く超える第192バッチ (第292工場で約8,000機生産) にまで達している。そして1万機以上生産されたPe-2のバッチ番号などは、それを遥かに超える400番台にまで達している。

Pe-2は第22工場だけで9,000機近く生産されたとはいえ、生産機数に対してバッチ番号が遥かに先に進んでいる。その理由は、1つのバッチで生産する単位が小さかったからだ。その数は僅か20機で、この生産単位で次のバッチに進むのであれば、当然その数は大きいものとなるという訳だ。

なおこれはYak-1で挙げた第292工場も同じで、こちらは序盤のバッチ番号で1バッチ辺りの生産機が少なかったのだ。後に100機単位になっているが、機数がLaGGより多いのでここまで大きい数字になったのだろう。

という訳で、「LaGG-3は66も異なる型が作られた訳ではない」し、「その66という数もソ連機の中では大きい数ではない」ということも説明し終えたところで、この記事も締めようと思う。


註2:なお「Series 66というのは正しくない」と主張するものもあり、それは20番台後半から飛んだ先の『第60バッチ』が実際の『Series 66』の始まりなのだと言う。つまるところ「最終モデルはSeries 66でなくSeries 60だ」という話になる。

確かに第21工場の主要なSeriesでも、実際の変更が入ったSeries/バッチとは異なっているものもあるため、そうした可能性は大いにあると筆者も考えるが、現時点では確たる証拠も根拠も無いので、「そういう説もあるんだなぁ」くらいに思っていて欲しい。

註3:何故LaGGがこの規模で別の設計局の機体とパーツを共通化出来たのかは不明。空力洗練と言えば、TsAGIがそうした研究と各設計局へのフィードバックをしたりなどしていたので、この辺にも一枚嚙んでいるのかもしれない (Yak系のインテークの形状変更はTsAGIが絡んでいる)。ひとまず手持ちの資料では、TsAGIが何かをしたという記述は無かったし、勿論[独自研究]タグを付けるような話なので、信じないように。あくまで「かも?」のはなし。

まとめ

あまり述べることも感想も (今のところ) ないので、今回は話をまとめて終わりとしよう。

後で追加するかもしれない。

  • 『Series』は第21工場の『生産バッチ』の数字から取られている。
    • Seriesは1から66までの連番ではない。
    • Series 66だけは第31工場での生産バッチから取られた。
  • 書籍やWeb上で用いられるSeriesは、そのバッチだけでなく、次の大型変更が入ったSeriesまでを一括りに扱っている。
  • 「Series XXで取り入れられた」と書いてあっても、実際にはその前後のバッチであることもある。
  • 『Series』はLaGG固有のものではなく、他のソ連機でも用いられている。
  • 66というバッチの数は、突出して多い数という訳ではない (Yak-1は第192バッチ、Pe-2が400番台まで達している)

以上、LaGG-3とSeriesの関係についてでした。2021年ギリギリ最後の記事になりましたね。(23時57分ごろ書き終えたため)

 

2022年もよろしくお願いいたします (何を?)。

続きの記事⇒ 『I-16とtipのカンケイ


【メッセージ?返し】(2022/04/24掲載)

すみません、もう数か月も前に頂いていた投稿メッセージだったのですが、色々と重なって長いことお返しできず……。「評価フォームによるものをどう返そうか」と悩んでいたというのもあったのですが、ひとまず記事の下に書いてみることにしました。

番号が飛び飛びの方のシリーズ分けで、結構大きな改良が為されてますが、各工場にわざわざ航空機設計士でも配属していたのでしょうか?工場が勝手に設計を変えてこまらなかったのでしょうか?

K氏より (名前を書いてよいか分からないので一旦仮で)

えーと、まずスミマセン。恐らく第31工場による大規模な改良―『Series 66』のことだと思うのですが、2022/04/24の更新で書き換えた通り、この改良は第31工場発のものではなく、LaGGの改良を主導していた第21設計局によるもののようです。

なので、『Series 66』の生産自体は第31工場によるものですが、設計は彼らによるものではないということでした……結局全ての改良は第21設計局がやっていたということでしょうかね。

 

とはいえ、一応第31工場もLaGGを改良をしようと考え、作業をしていました。正確には第31工場ではなく、同工場にあった第31設計局 (OKB-31) が、ですが。

第31設計局は、LaGG-3の共同設計者の一人であるゴルブノフが長を務めており、独自の改修型を設計・試作していました。例を挙げると、LaGGをベースの軽量化及び強化を施した発展であるI-105がありました。

もう一人の共同設計者であるグドコフも、別の設計局で独自にLaGGを空冷化したGu-82を設計していますし、各工場の設計局は、意外と自由に改良型などの設計・提案が出来ていたようです。

ただ、それが主生産型に取り入れられる、もしくは主生産型と置き換えられるかは別の話です。やはり改良のリーダーたる第21設計局が考え、各工場はそれに従うもので、独自に変更を加えることは"あまり"ない筈です。

 

……もちろん「工場によって生産仕様が違う」というのは、いくつか例があります。例えばIl-2などでは、第381工場が独自に欠点の対処をしており、「翼内火器の搭載位置を内外入れ替えて生産していた」という事があったそうです。

こうした工場独自の仕様は、一体どこまでが許されていたのかは分かりません。Il-2の例を見るに、小規模なものならOKだったのかもしれません。大きく構造を変えるとか、そういうレベルになるとNGなんでしょうかね……修理デポが対応に困りそうな程度とかそういう……。

あとは生産ペースを落とすようなものもNGでしょう。決められた生産数 (=ノルマ) を達成しないことは許されていませんでしたから。

 

という訳で

「工場に設計局があるので、各々そこで設計は出来た (Series 66は第31工場の変更では無かったでしたが)」

「各工場が勝手に新しい変更は入れることは基本的には出来ない」

「ただし一部の機体では工場独自の仕様の違いはあった (どこまで許されたのかは不明)」

という感じでしょうか……。

 

このメッセージが無ければ、今回修正したことについて気付かなかったと思うので、投稿いただきありがとうございました。


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<参考リスト>

=書籍=

■『LaGG Fighters in Action』Hans-Heiri Stapfer, Squadron/signal publications (1996)

全体的に参考とした

■『Yakovlev Aircraft since 1924』Bill Gunston, Yefim Gordon, putnam aeronautical books, (1997)

pp. 72-73 (Yak-7BのSeries情報)

 

=Kindle=

■『Lavochkin Fighters of the Second World War』Jason Nicholas Moore, Fonthill Media (2016)

■『LaGG & Lavochkin Aces of World War 2』Mellinger, George,  Bloomsbury Publishing.

p. 12

 

世界の傑作機のラヴォチキン戦闘機号も目を通したが、全ての情報は上記書籍がカバーしていた。

 

=Web=

◆Lavochkin LaGG-3 drawings and evolution (英:2021/12/20アクセス)

http://massimotessitori.altervista.org/sovietwarplanes/pages/lagg3/lagg3drawings/lagg3drawings.html

 

◆Серийное производство и модификации (露:2021/12/23アクセス)

https://tech.wikireading.ru/15891

 

◆ЛаГГ-3 - Справочная информация для определения самолётов и двигателей (露:2021/12/31アクセス)

https://trizna.ru/forum/topic/30739-%D0%BB%D0%B0%D0%B3%D0%B3-3/

第21工場や第31工場のシリアル規則などについて話し合われていたフォーラム

 

◆ЛаГГ-3 Фото и схемы (露:2021/12/31アクセス):シリアルサンプル①-3121422の元

https://airpages.ru/ru/laphoto.shtml

 

◆Ла-138|Airwar.ru (露:2021/12/31アクセス):シリアルサンプル②-31213173の元

http://www.airwar.ru/enc/xplane/la138.html

 

◆Yak-1|Airwar.ru (露:2021/12/23アクセス)

http://www.airwar.ru/enc/fww2/yak1.html

 

◆Republic P-47C Thunderbolt|joebaugher (英:2021/12/30アクセス)

http://www.joebaugher.com/usaf_fighters/p47_3.html

P-47のサブタイプについて参考とした